2間間口の2階建て木造住宅が密に建ち並ぶ、典型的な下町の一角。
人々の息づかいが日常的に感じられるまちに住むことを希望した施主夫妻は、2区画分を合筆したこの地を選んだ。
施主夫妻は、東南アジアをよく訪れ、数年間タイに住んでいた経験もある。設計スタート時には、アジアの開放的でリラックスした空間が好きだということ、料理をすること、食べること、飲むことが好きで、それらをゆっくり愉しむ時間を大切にしたいとの思いが伝えられた。
下町の建物が密集する環境での建ち方をスタディする中で、私たちは外壁を隣家に対し正対させるのではなくわずかに斜めに立面させた。
その結果生まれた三角形の空隙から風や光を取り込むことにした。
玄関でもある1階の土間は、掃き出しの引き違い窓を介して路地と地続きである。
隣家の外壁と室外機、植栽、ジョウロなどがこの町の一風景として住宅内に引き込まれる。
六角形3階建てボリュームの中核に、食の要となるキッチンスペースを3400mm×3600mm×天井高4250 mmの大きさで設定した。
そしてそのまわりを360度包むように生活スペースを配していった。
アジアの住宅で見られる中庭のような半屋外空間が持つ開放性や親密さを実現するため、キッチンは床はタイル張り、壁は珪藻土仕上げ、上部の窓には白い格子を施している。
矩形のキッチンスペースと六角形の二重構造は、くびれたり広がったり、開口を介して町と出会ったりゆるやかに回遊したりといった固有の体験を生み出す。
2階と3階を繋ぐスチールの階段。
床の抜けを介してハイサイドライトからの自然光を導くために蹴込み板は設けず、段板は6㎜の薄さにした。
腰壁兼ささらのスチールプレートのおおらかな曲面には、自然光を拡散するレフ板の役目も与えている。
3階はL字の平面を持った寝室となっている。
寝室のあるレベルからさらに数段上がったところにバスルームを配した。
多角形の強い壁によって守られたバスルームは3階屋上のテラスに大きな開口を通して面し、プライバシーを充分確保すると同時に開放感を両立させている。
このまちのもつ空気感や密度感をあらたな形で継承し、室内とまちとの肯定的な関係をめざした住宅である。