横浜市の丘陵地に建つ住宅である。施主は、日常の慌ただしさから解放され、ゆったりとした居心地のよい空間を望んだ。 造成のためのコンクリート擁壁は打設して間も無く、設計スタート時点において強く存在していた。
そこで私たちは「既存のコンクリート擁壁をも自分たちが設計したかのように認識される建ち方」をめざすことにした。
車の転回のために隅切りされた擁壁のラインに沿って、500mm程度のオフセット距離を確保し外壁のラインを決めた。その外壁は地面まで接地させず1100mmの隙間をもって止めた。そのため地面はその隙間から引き込まれる庭となり、またエントランス動線のための空間をも創出している。
敷地は3方眺望が開ける恵まれた環境であった。設計にあたっては、事前に高所作業車を使って高さごとの眺望をリサーチした。設計中はその結果をもとに、住まい方と開口部の大きさや位置を決めていった。
天井までのガラス面により囲われた玄関スペースは、半ばパブリックな場として存在している。2階へ上がる鉄骨階段は内外を分断するガラス面を飛び越え、外部領域側を上がっていく。
キッチンはもう一つの部屋としても成立するよう、半ば独立している。グレーの大判タイルの床に白煉瓦の壁、そして緑豊かな眺望を切り取るピクチャーウィンドウ。他のスペースと趣の異なるスペースとなり、ときにノートPCを持ち込んで仕事する場ともなっている。
3階の仕事部屋。間口一杯に渡るカウンターは、45mm厚のタモ集成材。構造材に緊結することにより、床から支持することなく4.5m幅のデスクを実現させている。
白椿が植えられた中庭に面する主寝室は、ウォークスルークローゼットが隣接し、抜けるとその先はユーティリティー兼洗面脱衣室、そして浴室へと続く。
1階では地面を導くことにより周辺環境と連続し、上層では遠方へとどこまでも視線が伸びてゆく。
敷地がもつ特質を生かし、それぞれの場において内外の親密な関係を生み出すことをめざした住宅である。