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西永福の家

Renovation / Housing
Update: 2024.7.17

既存建物は平成6年にハウスメーカーによって建てられた軽量鉄骨造の規格化住宅。

もとのフロア構成は1階にLDKと水回り、2階に3つの個室、小屋裏収納、地下に納戸。

構造材は全て仕上げで覆われていて、鉄の存在をどこにも感じない、ごく一般的な住宅の設えだった。しかし小屋裏収納からのぞき見ると、軽量鉄骨の構造材がとても魅力的な存在感を放っていた。
そこで2階の壁と天井を取り払って完全にスケルトンとし、鉄骨の造形を露わにするとともに、のびやかな大空間を創出した。

 

小屋裏に20年以上隠れていた軽量鉄骨の架構を見つけた時、それと共存することになる壁天井の仕上げがポイントになると考えた。鉄の素材感を活かしながらも、空間の印象がラフになりすぎない繊細な計算が必要だ。選択したのは、針葉樹合板にEP薄塗り塗装。

合板3m×6m板をそのまま使うのでは割付のスケールが大きすぎるという判断から

910×450にカットし、木目がつながらないようランダムに貼っている。
光によって肌理が微妙な陰影を見せるこの壁と、細い線材である軽量鉄骨が、大空間を親密なものにしてくれている。

 

1階について。

玄関から庭につながるエリアの既存床と天井を剥がし、広い土間スペースとした。
玄関でもあり、庭と接して外の空気を感じられるスペースでもある。
椅子やテーブルを置いてくつろぐ、デスクを置いて作業する、自転車やDIYなど趣味のスペースとするなど、生活スタイルに合わせて自由に使うことができる。

 

3つの個室はこの土間スペースに対して引戸で仕切られており、開放することで一体化した大きな空間としての利用が可能となる。 

 

この家には地下室があった。
間口2.6m×8.6m。納戸としてのみ使うにはもったいない広さだ。
そこで、ここに浴室洗面室を設えることにした。

3枚建てのアルミサッシを3面入れ、手前からフリースペース→洗面脱衣室→浴室→インナーテラス
となっている。
手前のフリースペースは趣味室としての使用が可能で、水回りが近いこともあり、特にトレーニングルームには最適だ。床壁天井の全てを白とすることで、

自然光がほとんど入らない地下空間であっても明るい印象に仕上げている。

 

「ほとんど入らない」と書いたが、実は自然光も取り入れられる工夫を施している。先に載せた玄関土間スペースの写真で、床に長方形のガラスが埋め込まれていることにお気づきになっただろうか?

この約50cm×70cmのガラスが、地下のインナーテラスに自然光を届ける。角度によっては浴槽から庭の植栽を見上げることができ、入浴の気持ちよさを増している。

 

リノベーションの前後で建物がどのように変わったか。近いアングルの写真を比較すると分かりやすい。

 


西永福の家は、2階の南面の3つの窓が、それぞれ個室に別れながらも同じ大きさで等間隔に配置されていた。この等間隔の窓と軽量鉄骨の構造材が、この家の見た目の印象を形作る要素の一つとなっていた。
窓下に9mに渡って設えた本棚によって、元々の家が持っていた見た目の印象を少しだけ強調している。

 

2階のLDKは9.2m×6.5m。およそ35畳のワンルームとなっている。
生活のスタイルに応じて住みこなしていけるようにいくつかの準備をした。ひとつはテーブル。
900×1800のテーブルを2つ、スチールフレーム+パイン材で製作した。
長辺を合わせると大きな正方形テーブルになり、短辺を合わせると3.6m長のデスクを兼ねたテーブルとなる。
もちろん2つをバラバラに置くのも自由だ。

次に造作棚。
窓に沿って製作した9mの棚のうち、1/3は固定されていない。棚を任意の場所に動かすことで、ゆるやかに空間を区切ることができる。

 

デスクやソファをどこに置いても対応できるように、スイッチ連動のコンセントタップを鉄骨梁に設置。クリップライトやペンダントライトを好きな場所にレイアウトできるように配慮した。

 


既存住宅がもともと持っている美質を注意深く観察し、それが最大化されるあり方を探りながら建築としての実現をめざす。

このような態度はリノベーションを行うにあたって不可欠だが、実は新築でやっていることも同様と言える。
敷地や敷地環境を注意深く観察し、その美質を最大化することで、求められる機能や生活の理想的なあり方を実現する。それは、建築家という仕事の本質と言えるだろう。

 


  1. 竣工:2018年7月
  2. 用途:住宅
  3. 構造:軽量鉄骨造(リノベーション)
  4. 敷地面積:142.49㎡
  5. 延べ床面積:138.2㎡
  6. 施工:コムスタイル
  7. 設計:都留理子 松田隆志
  8. 写真:淺川敏