70年ほど前に建てられた長屋で生まれ育った施主が、 売りに出された隣家を購入。 2軒分を建て替えて、鉄筋コンクリート造4階建ての4世帯住宅にしたいという依頼をいただいた。 1階はご両親の住まい、2階は賃貸住宅×2戸、3-4階は子世帯の住まい、というプログラムである。
敷地は第2種高度地区。第1種ほど規制は厳しくないが、4階建ての高さとなると大きく影響を受ける。 敷地の2辺からかかる高度地区斜線に素直に従った結果、屋根は3つの面からなる多面的な形状となった。 この特徴的な外観の屋根は、内部空間にとっては、3階と4階をやわらかくひとつの空間として包み込む天井面の役割を果たす。
道路に面して設えたフェンスは、亜鉛溶融鍍金リン酸処理仕上げのスチールをフレームに25×40のウリン材を使ったルーバーでデザインした。
門扉側にレバーハンドル、枠側には表札やインターホンを設置する必要がある。
そのために門の戸先側300ミリ幅、枠の扉側300ミリ幅分をリン酸処理鋼板の面としている。とても表情のある仕上げで、経年によって味わいの変化を楽しめる。
左の門扉は2階の賃貸住宅および3階の子世帯へとアプローチする。右は親世帯専用だが、 1階には茶道の先生である母のための茶室があり、門扉の先は茶室へと至るアプローチ庭にもなっている。
茶室の畳敷部分については、解体前の茶室と完全に同じ寸法とすることが求められた。 また、簾戸と障子、炉は前の茶室で使われていたものをそのまま新しい茶室に設えている。 床板はケヤキ、庭へと上がる段は松、天井は網代天井。 開口部からの自然光が床の間に美しく導かれるよう、床の間の壁に細く開口を開けた。
3-4階は子世帯の住まい。 高度斜線から規定された間口3200、奥行き10m強の細長い住空間となっている。 4階のリビングへと上がる螺旋階段が、ダイニングキッチンのエリアと寝室エリアを緩やかに分けている。 空間の中で存在感を放つステンレスカウンターは長さ5m。キッチンカウンターがそのまままっすぐに伸びてダイニングテーブルへと一続きになっている。
螺旋階段部分のRC床は、構造的に開口とすることが可能になっていて、下の階の貸し室とつなぐことができる。例えば将来の家族構成が変化して居室スペースが必要になった際に、螺旋階段を下方に伸ばすことで2-3-4階の3フロアを一つの住空間にするといったフレキシブルな対応が可能だ。
3階と螺旋階段や吹き抜けでつながる4階は、子世帯のリビング兼書斎。敷地の2辺からかかる高度斜線勾配によって多面的にデザインされた天井面は、この角度だからこその柔らかな陰影を生み出している。
相続等のタイミングで敷地が細分化されていくことの多い首都圏にあって、新宿Yは2つの敷地を合わせて拡大するという稀少な例である。 生まれ育ったこの土地に対する施主の深い思いから構想が生まれ、隣地取得を経て完成したこの家は、これから先の家族の物語を長く見守り続けることになるだろう。