中華街に建つ多くの建物のファサードは訪れる人に非日常的な中華体験を提供し、中華街独自の世界観を生み出している。
そのような中華街にあって、私たちは「引き算」することにより存在感を放つ建築について考えた。
また、この土地はオーナーの亡きお母様が戦後苦労をしながら守ったものであり、母の想いを大切にしたいのだ、という想いも伺っていた。 そこで、チャイナドレスをモチーフとした建築をめざすことにした。
白いチャイナドレスは、滑らかなシルク生地に立体的な刺繍により梅が描かれており、光や角度によって異なる表情を見せる。この現象をファサードに再現するため検討を進めた。 外壁下地であるアスロック素地に、梅模様がくり抜かれたマスキングフィルムを貼り、リシン吹き付け。
フィルムをはがすと、チャイナドレスの刺繍のように、梅部分のみがリシンの凹凸テクスチャとなる。
その上で全体をウレタン塗装で白く仕上げた。
観光地でもある中華街の南門シルクロードに面するこの建築では、街の賑わいと室内との関係性をデザインする必要がある。
そこで、3〜5階の住戸は腰壁の高さを少しずつ調整した。
シルクロードに近い3階は腰壁を床から1400と高めにすることにより、下からの視線をカットする。
一方地上から充分に離れた5階は、腰壁を900と低めにして開口部の高さを広げることにより、眺望の広がりを獲得している。
これらの操作により腰壁と窓の高さに変化が生まれ、外観にリズミカルな表情がもたらされる。
1-2階に入居するテナントは、建て替え前から営業していた中華雑貨とチャイナドレスの店舗である。
2階に設置予定のチャイナドレス用什器を2機、デザインした。
ハンガーにかけられたチャイナドレスを照らすリング 状の照明は、それぞれ直径1600、1200。
前面道路から見上げるとリング状に浮かぶ光は、明るく照らされた色とりどりのチャイナドレスとともに印象的なインテリアの一部となる。
3階と4階にはワンルーム住戸が2戸ずつ入っている。
それらはL字型プランと長方形プランの組み合わせとし、ファサードに住戸の界壁が現れることを避けた。
その結果、上層と下層が分断されず、一つの建築としての統合された表情を生み出している。 5階はオフィスとしても使えるワンフロア1住戸である。
街灯の光によりうっすらと梅の模様が浮かび、立面全体にグラデーションが生まれている。
中華街において、強く主張することなく静かに存在感を放つ建ち方をめざした。