家々の庭の緑が豊かな、羽根木の住宅地。この街に生まれ育ったご主人は美術家であり、アトリエを併設した家を望んだ。敷地は間口11mの土地を2分割して分譲された、南北に細長い短冊状である。
作品制作のために必要な間口・天井高・奥行きをもつアトリエを1階、2-3階を住居とするこの計画において、課題が2つあった。それは、間口が限られている(5.5m)ことと、高度斜線による高さ制限である。
限られた間口のなかでなるべく仕切られない筒状の内部空間をめざす場合、耐震壁をいかに確保するかが課題となる。羽根木Iでは、450×120という、一般的には梁として使用する集成材を柱に使用。かつ、金物による剛性の高い接合方法をとることで、耐力壁で区切られない室内空間を実現した。
また高度斜線を交わしつつ3階建とするために、2方向のセットバックをしている。
上層の木造部における南北方向に大きなセットバック、東西方向に300ミリの小さなセットバックである。
これらのボリューム設定により、大きなセットバックは3階浴室に連続するプライベートなテラスを生み、300ミリの小さなセットバックは道路側にやわらかい表情の立面をもたらした。
1階アトリエの大きさや仕様は、作品の将来的な方向性をヒアリングしながら決めていった。制作には水を使うこともあるため、1階は壁・床ともにRCの打放し仕上げとし、高さの要件を満たすため、アトリエ部分は地盤より1mほど床を下げて3200mmの天井高を確保している。
作品によっては建築的要素がモチーフになることもあることから、コンクリートの質感を浮かび上がらせる北端にトップライトを、そして東壁面上方には十字格子の正方形窓を配した。
エントランスからアトリエに至る壁面には、蔵書のための本棚を全面に設えた。
踊り場にもなるコンクリートの収納ボリュームとその上の吹抜け、そして3階まで至る鉄骨階段は、中間的でやわらかい空気に満ちた存在となることをめざして素材や部材サイズを決めていった。
最上部には開閉するトップライト。
このトップライトは上から自然光を導くとともに、上昇した熱を外に逃がし夏の室内環境を緩和させる。
2種類の木の質感が満たす吹き抜けの空気感は、天気や時間によってもその表情を変え、打放しのアトリエ空間と木造住空間という異なる世界をつなげながら、どちらにも属さない。
高度斜線回避により生まれたプライベートなテラスと浴室は、どちらも同じくFRP防水+白いトップコートで仕上げ、白×青空の開放的な空間となった。仕上げがもたらす一体感により、露天風呂のような開放感が得られる。
約20㎡のアプローチ庭は、花ブロックと呼ばれる沖縄の穴空きコンクリートブロックで囲い、風通しを保ちつつプライベートな庭とした。南の緑は光を浴び明るく光り、アトリエからはもちろん2階キッチンからも吹き抜けを介してその存在を感じることができる。
美術制作と日常生活、地面と空。 2極の要素を包有し、ここにしかない住空間が生まれている。