
緑豊かな庭の家も多く残る、国分寺の住宅地。特徴的な家形のボリュームは、敷地を囲うフェンスの上に庭となるスペースを残しながら乗っかっている。施主夫婦は、緑や光、風が感じられる家を望み、この地を選んだ。


敷地は建蔽率が50%に抑えられており、外部(庭)を多く残すことが条件づけられている。つまり建物の配置は「庭をどちら側にどのように確保するか」と表裏一体の課題だった。検討を進めた結果、私道に寄せて建物のボリュームを確保し、緑豊かな隣地の庭側に外部(庭)を残すことにした。



敷地を囲う塀は2辺がコンクリート打ち放し、残り2辺がレッドシダーの縦ルーバー。コンクリート塀は建物ボリュームを支える構造壁でもあるため1層分の高さが必要だが、庭のフェンスにはその必要がない。そこでコーナーに向かって徐々に低くなるように計画した。検討プロセスでは塀部分のみの模型を1/10スケールでつくって確認した。

1階はLDKと水回り。北面と東面はコンクリート壁で守られる一方、南面と西面は庭の緑に囲まれて外を感じられる開放的な構成。住宅用の引き違いアルミサッシを連続させる際、木造の柱を間に入れるとサッシ同士が独立して見えかねない。そうすると「連続した開口部」には見えにくいため、庭に面する構造柱を鉄骨にしたH型鋼をカットして用意した77× 60のT字型綱。この柱が上階を支えている。サッシとサッシの間は取り付けのために必要な木材があればよいため、最小限の幅に抑えられる。
室内側には12mmのスチールリブ材。このリブ材の存在が「室内→庭」という視線の流れを促す一方、サッシとサッシのつなぎ目の存在感を軽減させてくれる。

キッチンからの眺めは可能な限りよくなるようにといつも考える。作業をしている時に見るのは手元だが、顔を上げたときには心地よい眺め──国分寺Kにおいては庭──に出会う。それは日々、いつもの日常を心豊かにしてくれる。


大学で建築を専攻されていた奥様は、大学時代から雑誌等で知り気に入ってくださっていたとのことで設計をご依頼いただいた。卒業後インテリアの道へと進まれており、一部の造作家具デザインをご自身で手掛けたいとの要望が。キッチン背面の収納はそのうちの一つである。
クリナップのアイランドキッチン面材と色味を揃えた黒をベースに、収納内部はウッド、カウンターにはモザイクタイルを使うなど、随所にきめ細やかなデザインがなされ、キッチン空間が心地よく豊かな魅力に溢れている。このように、プロジェクトによっては設計依頼の引き算あるいはコラボレーションも可能。個別かつ柔軟な対応は、建築家との家づくりを選択するメリットの一つである。


キッチン背面収納と外壁面とはあえて間を開け、裏動線を通した。メインの動線ではないので通常の廊下より30%ほど幅を詰め、有効600ミリとしている。この通路があるために玄関を入って正面が奥へと抜け、庭の緑へと視線が届く。

裏動線を進むと洗濯機や収納が収まる中一部開口があり、キッチンの背面カウンターを介してダイニング〜庭へと視線がつながる。さらに進むとキッチン収納を回り込んでダイニングへと至る回遊動線となっている。家事動線が集約されて機能的、かつ、お子さんやそのお友達が走り回り顔を出したり隠れんぼをしたりと、楽しい遊び場にもなっているとのこと。


北側に庭を確保することで、高度斜線による高さ制限内でもより高い建築が可能になった。結果として、水平方向には緑豊かな庭、垂直方向には最大7.6mになる吹き抜け。縦にも横にも広がりのある空間を実現することができた。


国分寺Kの鉄骨階段は、中2階までは直階段。その後緩やかな弧を描きながら子ども部屋へと上がっていくが、途中で右に分岐して寝室にも導く。どちらも廊下を介することなく、直接扉へと接続する。
吹き抜け空間の中でハイライト的存在の階段は、設計・施工のハイライトでもあった。コンセプト的スケッチからスタートし、平面図上で3種類の曲率に集約したアールを設定。同時に高さ関係を調整し、ささらの厚みやせいの寸法、分岐部分の取り合いを検討して決定していった。



高さ方向にゆとりのあるLDK空間の中、中2階となるロフトを確保。天井が抑えられ、椅子に座るとちょうどいい高さに設定されている。地震力もまかなうために、金物で上下の梁と接合した壁柱を4本入れる必要があった。この構造柱は将来本棚やデスクとして使うのに適した寸法に設定している。
引き渡し時には単なるLVL材だったこの壁柱。3年後、インテリアデザイナーである奥様のデザインにより、アールを生かした棚とデスクが美しく完成!

弧を描く階段を上がり、途中の立体三叉路を右へ進むと寝室の扉。中に入ると左にクローゼット、右にテラス。クローゼットもテラスも奥行き1200に揃えているため、部屋としての寝室は左右対象の家形空間となっている。

寝室を出て三叉路を2段上がるともう一枚の扉。これが子ども部屋。2人のお子さんが小さい間はひとつの部屋として。大きくなったら中央に収納を造作し、左右それぞれパーソナルスペースとなる。下階にロフトスペースを確保するために寝室より床のレベルを400ミリ上げているため、天井の一番低い部分は1564ミリ。少し屋根裏部屋のような雰囲気となっている。


水まわりも庭に面した1階に。庭を囲む塀は、浴室の前だけはコンクリート打放し。高さも天井まであり、しっかりと守られる。床仕上げはLDKと同じモルタル床。そのまま洗面室に続いている。庭に面するアルミサッシもLDKと同じように床から天井までの大きさ。立ち上げずに掘り込んだ浴槽は、庭との連続性を妨げない。洗面⇆浴室⇆塀で守られた、庭が一体的に感じられる開放的な水回り空間となっている。


北側に庭を確保することで獲得できた高さ7.6mの吹き抜けは、鉄骨階段を擁して国分寺Kの大黒柱的な存在である。吹き抜け空間のトップには、電動開閉可能なトップライト。雨を感知するセンサー付きのため、春夏には常時わずかに開いておくことで、上昇した熱気を外に逃すことができる。結果、エアコンの効率もよくて快適とのこと。
冬には温められた空気が上昇するため、それを下に戻せるようにサーキュレーター等を使うことも視野に入れていたが、その後サーキュレーターの必要はなく、床暖房+時々エアコンで十分とのこと。


この家にゲストを招くと、室内に入った時、外観からは想像できない開放感に驚きの歓声が上がるそう。外観の印象を良い意味で裏切る縦にも横にも広がりのある住空間である。





































